2022年39冊め

全員悪人

おもしろかったという言葉は適切ではないけれど本当におもしろくて、お風呂(ぬるま湯、比喩じゃなく)に浸かりながら一日で読んだ。ちょうど浴室のTVの2チャンネルで反田恭平さんが楽しそうに連弾してたりして、よいBGMだった。


「私」の混乱や周囲の戸惑い、高齢者や弱ってる人の心の隙間にぽろっと入り込む水道ポリスや魚屋さんみたいな詐欺師。


当事者の目線でつづられた各章が支援者や家族もふくむ悪人についてで、読み進めるうちに季節も症状も変化していく。認知症治療薬にパッチタイプの貼り薬があって、服薬確認をされた時にちゃんと毎日カレンダーに貼ってますよって答える様子が前々職でも同じようなことがあったからクスッとしたり。


地域包括支援センターの方に「認知症はね、大好きな人を攻撃してしまう病なんですよ。すべて病がさせることなのです。」と声をかけられたと村井理子さんのあとがきにあった。


実家で同居していた曾祖母が私が中学生の時に認知症になり、原爆で亡くなった曾祖父からもらった指輪がなくなったと大騒ぎして警察を呼んだことがあった。お巡りさんが帰りがけに「もしどこかで指輪が見つかったとしても、絶対にばあちゃんを怒ったらいけんよ。110番したことも責めんであげてえね」って言ってたのを今でも覚えている。どんなに家中の施錠を工夫しても明け方に徘徊したり、鏡の中の自分に向かってずーっと話しかけ続けていたこともあった。


いつかは私にもそういう日が訪れるのかもしれない。90近くなった夫にヘルパーさんと浮気してるんじゃないかと怒鳴り散らしたり、リモコンをぶつけてケガをさせてしまう日がくるのかもしれない。


多少のトラブルはあっても幸せに生きてきて、自分が家族や家を慈しんで守ってきた誇りがあって、何より後期高齢者になっても夫のことを愛している本人の混乱が伝わってきて、最後の方はちょっと泣いてしまった。